《TOFU magazine 旅する岐阜 21》/【北方町】さのっち農園

TOFU magazine 21」に掲載した特集記事をご紹介しています。
岐阜県の42市町村を1号につき一つずつめぐる特集「旅する岐阜」。第21回は北方町を訪れました。

《旅する岐阜21 Kitagata 》

樹と向き合い、柿の声を聴く
柿作りに情熱を注ぐ若き柿農家

鮮やかに色づいた早秋や太秋(たいしゅう)の収穫が始まったばかりの10月初旬の柿畑。岐阜県発祥で、とろけるような柔らかな果肉や果汁の多さと甘さから〝柿の王様〞と称される富有柿の果実は、まだ青々としていた。

「僕は兼業農家。限られた時間しか畑に出られないから、作業を分散するためにいろんな品種を作っているんです。これから早秋、太秋、早生(わせ)富有、富有、袋掛け富有の順に、12月まで収穫が続きます」。

日に焼けて精悍な顔立ちの佐野伸弥さんは、自らが経営する「さのっち農園」の畑で、樹々の一本一本に目を配り、果実の状態を確かめていく。

 本職は農作物の保険屋として、台風などの災害による被害状況を調査するために地域の柿畑へと赴いている佐野さん。「勉強のために自分も柿を育ててみよう」と思い立ち、2013年に地元の北方町で耕作放棄されていた柿畑を借りて、柿作りを始めた。

柿作りの大半は剪定で決まる、と佐野さんは言う。剪定は、より多く結実させたり、病害虫の発生を抑えたりと、樹を健やかに育てるために欠かせない作業。「必要なのは知識と技術とセンス。でも、何より大事なことは、本当に親身に樹と向き合って、〝柿の声を聴く〞こと」。

理想の樹形は、主幹から3本の主枝が伸び、そこから亜主枝や側枝、実を付ける結果枝を四方や上に勢いよく伸ばす「開心自然型」。樹と対話し、数年後の樹の姿を思い描きながら鋏を入れる。

佐野さんには、師と仰ぐ人たちがいる。剪定技術の向上や高品質な柿の栽培などにひたむきに取り組み、近隣一帯を国内有数の富有柿の名産地に育て上げてきたベテラン生産者たちだ。彼らから多くを学び、夢中で柿と向き合った9年間で、農地は17000㎡にまで増えた。若い生産者を育て、高齢の農家などの作業も請け負う。「これまで培われてきた岐阜の富有柿を守る。それも自分の使命だと思うんです」。

ある樹の前で足を止め、佐野さんが呟いた。「僕、この樹を見て泣いちゃったんだよね」。主幹から見事に3つの枝が分かれ、さらに四方へ、天へと広がる枝や葉が、太陽の光を浴びて生き生きと輝いている。

「美しいでしょう。こんな枝が作れるようになりたいってずっと思っていたんです」。

たわわに実った果実には、殆どに袋掛けがされている。選び抜いた果実に袋を掛け、樹上でじっくり熟成させて、大きく糖度が高い完熟果に仕上げる「袋掛け富有」。それは、手塩にかけた樹が立派に育ち、実を結んだ証拠でもある。

佐野さんの情熱と愛情が注がれた富有柿が、もうすぐ紅く色づく。

さのっち農園で栽培された柿は産直サイト「ポケットマルシェ」でも購入できる

さのっち農園
本巣郡北方町芝原東町4-48
TEL.080-1154-2402
facebook:@sanotti042581S
Inastagram:@shinya.sano

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2021年12月12日作成
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