《TOFU magazine 旅する岐阜 06》/【恵那市】古本 庭文庫・あさやけ出版
「TOFU magazine 06」に掲載した特集記事をご紹介しています。
岐阜県の42市町村を1号につき一つずつめぐる特集「旅する岐阜」。第6回は恵那市を訪れました。
《旅する岐阜06 Ena》
100年後も誰かの心を打つ
美しい詩集をつくりたい
その本は、必然をもって生まれる。
詩集『聲』と『石』。
今まさに本のかたちをまとい、誰かのもとに届こうとしている幾篇もの詩があることに、私はささやかな希望を抱く。
標高1128メートルの笠置山をはじめとする山々を擁し、木曽川や矢作川がゆったりと流れる恵那市。
その笠置山の麓、眼前に木曽川を眺める小高い丘に建つ築100年余りの古民家で、百瀬雄太さんと実希さんが営む「古本 庭文庫」には、東京や京都、岡山や愛媛など遠方からも客が訪れる。
縁側に座ると、視界に広がる緑。川に架かる赤い橋。通り抜けていく清々しい風。
日がな一日、本とともに。ときには畳に寝転がって、庭先の猫に話しかけ、また本のページをめくる。そんな時間の過ごし方こそふさわしいこの場所に、みな惹かれるのだろう。
ある日、それまで何度か庭文庫を訪れていた石原弦さんが、紙の束を携えて現れた。彼は恵那市串原にある「山のハム工房 ゴーバル」の肉豚を育てる養豚家だ。
手にしていたのは、10代から30代までに書き溜めた詩。素朴だが心を震わす言葉で綴られた、静かな祈りのような詩だった。
また別のある日、東京からふらりと一人の客が訪れた。世界的な装丁コンクールで受賞歴をもつ造本家の新島龍彦さんだった。
これまで何度となく本や詩集に支えられてきた雄太さんと実希さんは、いつか小さな出版社を立ち上げ、本を出版したいと夢見ていた。
「インターネットでは言葉が速く遠くまで伝達するけど、せいぜい今生きている人までしか届かない。でも、言葉が本というかたちをしていれば、100年後の子どもたちにも届いて、ページが開かれるかもしれない。そんな本をつくるって、ロマンがあるなって」と笑う実希さん。
そして二人のもとに、詩が届き、造本家が現れた。時が満ちたのだ。
出版社を始めよう。
名前はもう決めてある。
「あさやけ出版」だ。
庭文庫を〝泊まれる古本屋〞にしたいとも願っていた二人は出版社と宿を始める資金をクラウドファンディングで募ると、450万円近い支援が集まった。
コロナの影響で宿のオープンは延期しているが、出版社最初の詩集は、2020年8月に発行する予定だ。まだ製作途中の見本を愛しそうに広げながら、実希さんは言う。
「この詩集は、時代や場所を超えて誰かの心を打つ、美しい本になると思います。詩集なんて売れないと言われる時代だけど、もし、ベストセラーにならなくても、普段詩集を手に取らない人や、この本を必要としてくれる人に、ゆっくりでもいい、届いてほしい」
古本 庭文庫/あさやけ出版
恵那市笠置町河合1462-3
13:00~18:00 火・水・木曜定休
TEL.050-6869-7427
http://niwabunko.com/
※詩集『聲』と『石』の販売開始時期や取扱店、価格などの 詳しい情報は「古本 庭文庫」のウェブサイトにて随時公表
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