《TOFU magazine 旅する岐阜 36》/【瑞穂市】大衆食堂 味美

TOFU magazine 36」に掲載した特集記事をご紹介しています。
岐阜県の42市町村を1号につき一つずつめぐる特集「旅する岐阜」。第36回は瑞穂市を訪れました。

《旅する岐阜36 Mizuho》

人生の半分は“めしや”
かあちゃんの味を届ける人情食堂

11時半を過ぎる頃、広い駐車場に続々と車が停まり、にわかに店内が賑わってきた。トレーを手に棚のガラス戸を開け、思い思いにおかずを取り出す客たち。

鯖の味噌煮、小松菜の卵とじ、焼肉、アジフライ、肉じゃが、冷奴。ずらりと並ぶ惣菜は50種類以上。皿が減るのに合わせ、厨房から作りたてのおかずが追加されていく。「お兄ちゃん、今日は麦ご飯やよ」。溌剌(はつらつ)と声をかけるシズ子さんに、山盛りのご飯と熱々の豚汁を受け取った若い男性が笑顔を返す。創業42年目を迎える食堂に広がる、いつもの光景。

店主の山田保彦さんが妻のシズ子さんと「大衆食堂 味美(あじよし)」を開いたのは昭和58年のこと。瑞穂市を東西に貫く道路沿いに建てた食堂。

「わしは19歳からダンプの運転手をしとったんです。小学生のときに母親が28歳で亡くなってね。中学を卒業して車の修理工になって、18歳で大型の免許を取って」。懸命に働き、ついに29歳で運送会社の社長になった。だが、倒産を経験。トラック1台で8年かけて借金を返済し、やがて、この仕事はいつまでも続けられないだろうと、トラックの買い替え時期が来たのを機に42歳で商売替え。この先は〝めしや〟の主人として人生を終えようと決めた。

「レストランは作れんけど、女房となら食堂はできると思ったんや。かあちゃんの味やね」。

突然、食堂を始めると言い出した保彦さんに、最初は首を横に振っていたシズ子さんだが「あんたの料理はうまいんやから」と口説き落とされた。「人生、七転び八起きよ。いろんなことがあるわね」と当時の苦労話も笑い飛ばすシズ子さん。そのきっぷの良い人柄を慕ってこの店に足を向ける客も多いに違いない。

テーブルに着き、手を合わせる。黄金色の玉子焼きはほんのり甘く、噛むとジュワッとだしが滲み出す。保彦さんが運転手仲間から作り方を教わったという本場の焼肉のタレが隠し味の唐揚げに、ご飯がどんどん進む。自慢の豚汁は味の染みた大根、玉ねぎ、ごぼう、豚肉、豆腐がたっぷり。

「ご馳走さん。美味しかった。ここに来ると、つい食べすぎてしまうわ」と立派なお腹を叩いて勘定を済ます作業着姿の客に、思わず共感して頷く。

「めしやの主人になって良かった。わしも84歳。あとはもう健康のために、これからも店をやれるだけやろうと思っとるんです」と話す保彦さんに、胸がいっぱいになる。

ここは毎日をひたむきに生き、働く人たちのオアシスなのだ。今日もお腹を空かせた客たちが、心安らぐ〝かあちゃんの味〟を求めて集う。

惣菜は玉子焼き230円、煮サバ290円など200円台が中心。ほとんどの客が注文する豚汁はサービス価格の130円。 「ほんとは値上げしたいんやけど、まだ頑張りますわ」と保彦さん。


大衆食堂 味美
瑞穂市別府1534-1
11:30〜14:30、17:30〜20:00
水・土・日・祝定休
TEL.058-327-2336 
https://www.mtec-hp.com/ajiyoshi

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2024年09月01日作成
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