さかだちぶらり旅・長野編3 鯉焼き専門店「藤田九衛門商店」
西へぶらり、東へぶらり。どうも「さかだちぶらり旅」です。
前回のぶらり旅記事ではカレーショップ山小屋さんをご紹介しました。
今回は長野編3をお届けします。
情報は現地調達すべし。
宿の方から善光寺で365日、毎朝行われる朝事を見ることができると聞き、まだ空が薄明るいうちに街へとくりだしました。
ひんやりとした朝の空気の中、「お数珠頂戴」してお戒壇めぐりして、なんだかとても充実した縁起の良い朝です。
時間はまだ7時。1日ははじまったばかり。
この善光寺の朝事に合わせて、近辺のおやき屋さんも次々とお店を開けます。
そんな中、おやきではなく「鯉焼き」のお店があるときき訪ねてみることにしました。
鯛焼きではなく、「鯉」というところも非常に気になります。
お店の名前は鯉焼き専門店、「藤田九衛門商店」さん。
朝日の差し込む静かな街の中、1軒だけ煙突から白い湯気立ち上っています。
落ち着いた藍色の暖簾と店構えに少し緊張…。
味ごとに色分けされたパッケージがショーケースに並びます。
古い引き戸をそろそろと開けると、雰囲気のある店内。
お店の奥から店主の藤田さんが出てきて「今4種類、焼きあがっていますよ」と声をかけてくれました。
季節によって味が変わります。気になる味があるときや多めに購入したときは事前にお問い合わせください!
タイミングによりますが、鯉焼きには5~6種類ほど味があります。
オススメはお抹茶とセットでその場でいただくこと!
お抹茶は手頃な価格のものから、高級なものまで幅広く取り揃えられていて、好みのものを選ぶことができます。
せっかく長野にいるのだからと欲張って、鯉焼きプレーンと和栗、お抹茶をお願いしてみました。
朝日を受けてぼんやり光っている様子が美しい…。それにしても長野の朝は冷えますなあ…。ぬくい…。
奥でお抹茶をたてていただいている間、こちらでしばし暖をとらせていただきました。
お店の一角にどっしりと構えていて、よく見るとお店の紋章がついています。
外から見えていたのはこの薪ストーブ(釜…?)の煙突でしょうか。
静かな店内に時々ぱちっと火の爆ぜる音が響きます。
鯉焼き「垂水」
これが鯉焼き!表裏柄が違うので、よく見て見てください。鯉の鱗模様もリアルで躍動感があります。
さて、こちらがお待ちかね「鯉焼き」です。
手のひらサイズですが、鯉の模様がしっかり描かれ、躍動感があります。
一口かじるとモチっとした皮の食感と中の餡の甘みが広がります。
このバランス、実はとても難しいとききますが「藤田九衛門商店」鯉焼きは絶妙です!
しかも驚いたことに、中の餡は小豆ではなく、「花豆」を使っているそうです。
花豆は皮が固いため、餡にすることはとても難しいといわれています。
しかし藤田さんは、長野で採れるこんなに素晴らしい素材があるのだから、この土地のものを使って作りたい、と難しい花豆から餡を作ることに挑戦されています。
お茶だけでなく、器も美しい色と柄。お抹茶と鯉焼き一匹のお抹茶セットは600円。 平日朝9時まで
口当たりよく、やさしい甘さの鯉焼きと渋いお抹茶は相性ぴったり。
紐をくくりつけて、手早くお土産に。もちろん紙袋もいただけますよ!
普通の鯛焼きは時間が経つとどんどん硬くなってしまうのが悲しいところ。
あたためなおしても皮の美味しさが蘇らなかったり…。
ところがこの鯉焼き!お持ち帰りしても美味しく食べられます。
ぜひ長野に来た人にお土産にしてほしいと、白玉粉を入れるなど試作を重ね、時間が経っても美味しい食感と味が保たれるように、細やかなところまで工夫が凝らされているのです。
珍しい「鯉焼き」を持って帰ったらきっと話題になること間違いなし。
何より本当におすすめしたい一品です。
それじゃ、お土産にぜひ一箱、とお願いする目の前で、さっと慣れた手つきで熨斗と紐が結わえられていきます。
「ほら、小包みたいでしょう。」
出来上がった包みを差し出して、にっこり笑った藤田さんにまたもや驚かされるのでした。
パッケージデザインに込めた思い
まるで古道具やさんのような小物もたくさん。
藤田九衛門商店さんは古民家で店内には古道具が並べてあり、まるでもう何年もあったかのような雰囲気です。
ところがお話をきくと、実はまだお店を開いて6年ほどだと言います。
しかし藤田さんとお話をする内に、とても丁寧に、思いを持ってイメージ作りをされていることがわかり、その仕掛けにすっかり魅了されました。
細部まで仕掛けが施されています。パッケージにも注目です。
鯉焼きの正式名「垂水」とは滝のとこと。
中国の滝を昇りきった鯉が龍になる逸話をご存知でしょうか。
そのいわゆる「登竜門」のストーリーが鯉焼きのパッケージに描かれています。(よく見ると左右が3段の滝になっています!)
成功祈願のとても縁起が良いデザインです。
藤田さんの思いに共感した仏師さんが掘った美しい鯉。鯉焼きの両面の柄になっています。
そしてこちらが鯉焼きの表裏の柄。
両面違う柄で、細部まで描かれており、まるで芸術作品のように鯉焼きが美しく、丁寧に作られていることがわかります。
その型の元は、なんと仏師さんが彫られたそうです。
藤田さんはその理由を力強く話してくれました。
「仏像は流行りがなくて、何年たっても美しい。鯉焼きもそんな風に美しく長く世に残っていくように、仏師さんにお願いして型を掘っていただきました。」
見せていただいた鯉の木彫りは今にも生き生きと水を弾いて飛び出して来そうに見えました。
海なし県の、新しい歴史をつくろう。
もともと日本料理の世界にいて、大阪から軽井沢の方に来たという藤田さん。
「あまりに寒くて山をおりてきて、今はここ(長野市)です」
と肩をすくめて笑いました。
色々な経験を通して、長野へやって来て、「鯉」料理の有名な場所で「鯛」焼きを売っていることがずっと不思議だったと言います。
ましてや長野は海なし県なのに。
「鯉にしたら面白いのではないかという思いがずっとありました。
周りの人にその話をすると皆いいね、とは言ってくれるものの実際にやる人はいなかった。
じゃあ自分がやろう、とはじめてみたわけです。」
お願いして作っていただいたというこちらの恵比寿様、鯉を抱えています!これが海なし県のスタンダードになったらきっと面白い!
「七福神の恵比寿様が抱えている魚って、何か知っていますか?」
と藤田さん。
「恵比寿様といえば、鯛ですよね。」
「実は魚とは書かれているけれどどこにも鯛なんて書かれていないんです。」
藤田さんは続けます。
「だから思いました。海なし県は鯛焼きではなく鯉焼き、恵比寿様が持っているのは鯉焼き。そうやって広めていったら、いつかはそれが当たり前になって、新しい歴史になっているかもしれません。」
ただ鯛を持った恵比寿様を見ることが多かったから、勝手に「そういうもの」と思い込んでいました。
けれど、もしはじめから鯉を見ていたら…?そういう風に言い聞かせられていたら…?
きっと恵比寿様の持っているものは鯉だと思っていたはずです。
そうか、歴史はきっとそういう風にも作られていくんだ。
それはとても夢があって面白そうだとすっかりわくわくしてしまいました。
「藤田九衛門商店」さん、これからも応援しています!
岐阜県も鯉を食べる文化があるとききます。
それならぜひとも「海なし県は鯉」作戦にのりたい。
そんな風に、一県ずつ広まって言ったら本当に100年後には、新しい言い伝えができているかもしれません。
岐阜県のみなさん、海なし県のみなさん、ぜひ「鯉」焼き、広めませんか!
住所:長野県長野市東之門町400-2(善光寺徒歩すぐ)
営業時間:6:30~売り切れ次第終了 お早めに!
定休日:不定休
駐車場:あり
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