【長野】勝野木材/さかだち社会見学
日本は国土の約7割が緑に覆われた森林大国。そのうちの約3割は、国が保有する「国有林」です。
国有林はそのほとんどが奥地の急峻な山地や水源地域にあり、土砂災害を防いだり、地球温暖化の軽減に重要な役割を果たしています。
岐阜県と長野県のほぼ県境にある、長野県木曽郡南木曽町(なぎそまち)に、国の大切な資源である国有林を守る会社があります。
勝野木材さんは、おもに木曽ヒノキの森林の伐採から製材、木工品への加工までを一貫して行う製材会社です。
南木曽町にはかつて300件以上もの製材会社がありましたが、木材の輸入自由化などに伴う林業の衰退とともにその数は激減しました。
従来の木材の流通は、伐採と製材は別々の業者が手がけ、さらに製材された材木は問屋などを介して建築業者へと届けられるのが主流。そのため中間コストがかかり、非合理的な仕組みでした。
勝野木材さんではそれを社内で一貫して行うことで、合理化を図り、結果的にコストダウンを実現し、低価格でも良質な木曽ヒノキの木材を建築材として、ハウスメーカーや神社などに卸しています。
広々とした製材工場には、切りたてのヒノキの芳しい香りが漂います。
木曽ヒノキとは、長野県の木曽地域から岐阜県の飛騨南部、東濃地域一帯に分布するヒノキのこと。
最大の特徴は木目が細かく強度が極めて高いことです。丈夫であるうえに加工がしやすいことから、建築材に非常に適しています。
木目の細かさの理由は、木曽の風土に由来します。木曽の山々は傾斜が非常に険しく、日当たりが良いとは言えません。そのうえ、冬は山頂ではマイナス20度まで冷え込む痩せた土地です。ヒノキが育つ環境としてはとても厳しいため、1年1年じっくり時間をかけてゆっくりと育ちます。年輪は木が1年に育つ幅なので、ゆっくりと育った木曽ヒノキはぎゅっと詰まった美しい年輪が刻まれるのです。
この日は勝野木材さんのパンフレットの写真撮影のため、山から木が切り出されてから、製材されるまでの一連の工程を見学させていただきました!
①伐採
山仕事は中部森林管理局から木曽ヒノキの伐採と搬出を請け負っているヤマカ木材さん(勝野木材さんのグループ会社)が行なっています。
スタッフは毎朝6時半に集合。そこから班ごとに現場へと向かいます。国有林は国から立ち入りを許可された車両しか入ることができません。
かつては「森林鉄道」という木材輸送のための鉄道が走っていたため、山頂近くまで車で登っていくことができます。木曽の森林鉄道は最盛期には400kmも続くほど、全国的にも規模が大きかったそうです!
舗装されていない山道なので、慣れていないとびっくりするくらい車で走るには険しい道です。もちろんクマやカモシカなどの動物に遭遇することもしばしば。
間伐する木曽ヒノキは樹齢80年以上。チェーンソーで1本1本大切に伐採します。
ゆっくりと木が倒れると、ずしんと地面の震えが足の裏を伝ってきました。
木の太さにもよりますが、重量1本およそ700kg以上。伐採後は傷がつかないよう、丁寧に運び出します。
神社仏閣に使われる天然木曽ヒノキの場合、1本の値段はなんと1000千万円を上回ることもあるのだとか!
高品質な天然木曽ヒノキはヘリコプターで空から輸送することもあります。
よく間伐材は、間引きされた質の悪い材だという誤った認識がされがちですが、決して悪いものではありません。
間伐材そのものも樹齢80年以上の良質な木曽ヒノキであり、さらに間伐することで他の木の成長を促し森林を育てるという効果もあります。
山の成長量を間伐量が上回らないよう、調整しながら伐採を行なっています。
②搬送
搬送はなんと山頂と山頂をワイヤーでつなぎ、機械を使って集材し、トラックで国有林の集積場へと運び出します!
その後、入札により勝野木材さんが丸太を購入。工場へと入荷します。
山の技術者の方がコントローラーを制御して、巧みに丸太を1ヶ所に集めていました。
なんなくこなしているように見えましたが、自然相手の作業はいつも危険と隣合わせです。
事故の発生率は実は建築業界の3倍にものぼるという現実があるほど。まさに命がけの仕事なのです。
その分やりがいも非常に大きく、「何よりこの仕事が楽しいからね。そうじゃなきゃやってられないよ!」と笑顔で言う社員さんの姿が印象的でした。
※国有林の集積場から入札にて購入した丸太を工場へ入荷する様子。
③皮むき
工場にトラックで運びこまれてきた丸太は、まずは皮を向く工程へと送られます。
伐採されたばかりの丸太は瑞瑞しく、触れると小口がしっとりとしているのがわかり、木が生きているのだということを感じさせられます。
機械で外皮をきれいに向かれ、表面が滑らかになった丸太は、向きを揃えて製材現場へと運び込まれます。
この時点で向きを揃えるのは「逆柱」を避けるため。「逆柱」とは木が本来生えていた方向とは逆向きに柱を立てることで、不吉な災いを引き起こしたり強度に問題が出たりすると言われています。
④製材
きれいに皮むきされた木材はいよいよメインの工場内へ!
ここでは1日におよそ800本分の丸太が製材されています。
工場はほとんどの工程が機械化されていて、木材は流れるように機械から機械へと渡っていきます。効率よく無駄がないようリズミカルに動く機械は見ているのが気持ちよいくらいです。
機械にかけて、太さや長さなどの情報をとって、丸太から取れる木材を測り、それぞれの丸太に合わせて表面が機械でカットされ、角柱材と板材に分けられます。
最終的な品質チェックは人の目で行いますが、作業が早くて正確な機械を積極的に取り入れ、少しでも効率化を測っています。
ドイツやオーストリアなど林業の先進国に視察に行って最新の技術を取り入れることも。
また、勝野木材さんでは製材加工の工程で出てくるウッドチップを利用するために商品化にも取り組んでいます。
毎日トラック何台分も排出ウッドチップを製品化することで、貴重な木曽ヒノキを余すことなく活用します。
80年生の木曽ヒノキ100%のウッドチップはとても良質で珍しいもの。
木曽ヒノキに含まれる香り成分には、雑草防止やリラックス効果、抗菌・消臭効果があるといわれており、ガーデニンングやドッグランに最適です!
また、ウッドチップだけでなく、丸太から削り出された樹皮もブルーベリー農園の堆肥や、牧畜用の敷き藁の代わりに使い、再び自然に返す循環をつくっています。
わたしたちがウッドチップを購入することは、これから100年、200年先の山を保全することになるということなのです。
⑤乾燥
製材された木材は水分を抜くために巨大な乾燥機にかけます。
実は乾燥の工程に入る前のある一手間に、勝野木材さんのこだわりがあります。
それは、木材をスプリンクラーで濡らすという作業です。
乾燥にかけるのになぜ敢えて濡らすのかというと、水分量を統一するため。
あらかじめ濡らしておくことで、乾燥にかけた時に含水量が15~18%に均一にすることができるのです。
こうすることで、木材の伸縮にバラツキが少ない良質な木材に仕上げることができます。
手間がかかるため、他の製材工場では、ほとんど行われていない作業なのだとか。
⑥品質管理
乾燥後、最後にもう一度加工仕上げをしたら、コンピュータで強度を測定。
1本1本に強度を表すナンバリングをしていきます。
Eの後に続く数が「ヤング係数」といって、木材の強度を表すものです。
ヤング係数の表記は必須ではありませんが、勝野木材さんでは信頼性の高い木材をお客さんにお届けできるように明記しています。
100以上が非常に強度が高いといえるそうで、ここで生産されている木材はほとんどがその値を超えています。
木曽ヒノキのすごいところは、伐採後も200年後までは強度が増していくということ。森林に生えている間だけでなく、その後も成長を続ける稀有な木材です。
見た目だけでは品質がわかりにくいため、少しでも他社と差別化してハウスメーカーさんをはじめとするお客さんとの信頼関係を築くことを大切にされています。
⑦木材の加工
さらに、勝野木材さんでは工場で出た端材を使った木工品の工房も併設。
上部で加工しやすい木曽ヒノキの特徴を活かして、現在は企業のノベルティを中心とした雑貨を職人さんが手作業で制作されています。
箸や積み木、鍋敷きなど、木のナチュラルな風合いと香りをそのままにした雑貨の数々は自然と手に馴染みます。
これからはオリジナル商品の開発にも取り組んで行きたいとのことで、どんなグッズが誕生するのか楽しみです!
帰り際、山仕事の現場から、木材加工まで全ての工程を見学させていただいた後に見る木曽ヒノキは、とても大切に育てられた子どもたちのように映りました。
わたしたちが森林資源を豊かに使い続けられるのは、見えないところで山を育て、守ってくださっている方々がいるからだということを実感した今回のさかだち社会見学。
勝野木材さんの新商品の開発などの取り組みは今後もご紹介していきますので、ご期待ください!
(勝野木材さんのウッドチップのウェブサイトのデザインはさかだちブックスを運営する株式会社リトルクリエイティブセンターが担当させていただきました。)
勝野木材
住所:長野県木曽郡南木曽町読書1750番地
HP:http://www.katsuno-wood.com/
ウッドチップウェブサイト:https://katsuno-chips.com/
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