《TOFU magazine 旅する岐阜 10》/【富加町】松井屋酒造場

TOFU magazine 10」に掲載した特集記事をご紹介しています。
岐阜県の42市町村を1号につき一つずつめぐる特集「旅する岐阜」。第10回は富加町を訪れました。

《旅する岐阜10 Tomika》

酒造りの歴史と文化を
絶やすことなく伝えていきたい

創業300年余を数える「松井屋酒造場」。江戸、明治、大正、昭和、平成、そして令和へ。その酒蔵は、いくつもの時代を経て継承されてきた酒造りの歴史を湛え、今もなお粛々と時を刻んでいた。

加茂郡富加町にある酒蔵で11代当主の酒向嘉彦さんがにこやかに迎えてくれた。酒向さんはここで生まれ、父や母が杜氏や蔵人とともに酒を造る姿を見て育った。

杜氏とは、酒造りを行う蔵人をまとめる最高責任者のこと。この酒蔵では、毎年冬になると越後(新潟)から杜氏や蔵人を招いて酒造りを行ってきた。「杜氏さんたちは酒造りのために半年ほど蔵に寝泊まりするので、冬になると蔵が賑わって」。

しかし、杜氏の高齢化や時代の変化で、蔵に杜氏を迎えることが難しくなった。そこで、蔵人として酒造りをしていた酒向さんは35歳のときに自身が蔵元杜氏となり、家族で小さな酒蔵を守ることに決めた。

富加町にゆかりのある銘柄として生まれた「半布里戸籍」と「加治田城」のラベルの文字はそれぞれ、長女と次女が中学生の時に書いてくれたもの。「にごり酒」は三女が小学生の時に書いてくれた文字だ。

だが、そんな酒向さんを45歳のときに大病が襲った。生死の淵をさまよい、奇跡的に一命をとりとめた酒向さんは、強い使命感に駆られた。

「酒造りは、伝統であり文化です。でも、今は小さな酒蔵がどんどん無くなっていて、あと10年でいくつ残るか。そうやって忘れ去られていく酒造りの歴史や文化を、後世に伝えなくてはと思ったんです」。

数年かけて酒蔵にあった7千点余もの酒造用具と生活用具を整理し、一つずつ詳細を書き記した。そして、酒造期以外は酒蔵を開放し、それらを民俗資料として展示する「松井屋酒造資料館」を1990年にオープン。

後に主屋と2棟の酒蔵、3600点余の酒造用具や酒造文書が、岐阜県重要有形民俗文化財に指定された。米を蒸す和釜、麹室、桶や櫂など、展示された道具の多くは今も現役だ。

さらに、杜氏や蔵人が使っていた将棋盤や時計、食器、ラジオや黒電話といった生活用具の展示を眺めていると、ここで酒造りと向き合い暮らしていた彼らの姿が目に浮かび、その笑い声が聞こえてくるような気さえする。

そう、まさに酒造りは文化なのだ。

「欲が深いかもしれませんが、うちの酒は、すべての人に飲んでもらいたいお酒です。江戸時代から変わらない手造りの酒の身持ちの良さを、みなさんに味わってもらいたい」。暦は師走。この蔵で、今年も酒向さんの酒造りがはじまる。

飲み比べ3本セット 1,500円(各300ml)加治田城/睦鳥/半布里戸籍

松井屋酒造場
加茂郡富加町加治田688-2 10:00~16:00 月曜、元日定休
TEL.0574-54-3111 https://matsuiya-sake.jimdofree.com/

松井屋酒造資料館
10:00~16:00 月曜定休 ※酒造期の12月、1月は見学不可
入館料:大人300円・中学生以下150円

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2021年01月11日作成
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