【さかだちインタビュー】吉成信夫さん、「本のひみつ基地」で大いに語る。《後編》
2024年7月末に岐阜高島屋の閉店に伴って一時休業し、9月1日に「無印良品 柳ケ瀬」としてリニューアルオープンした無印良品。その店舗の一角に、巨大な本棚が出現したのをご存知でしょうか。
1階と2階に設置された、この大きな本棚がある交流スペースの名前は、「本のひみつ基地」。そして、この場所の発起人代表は、前ぎふメディアコスモス総合プロデューサーの吉成信夫さん!「これは、なんだか面白いことが始まりそう…!」ということで、早速、吉成さんに会いに行ってきました!
「本のひみつ基地」とは?吉成さんは今、どんなことを考えているんでしょう?いろんなお話を伺ったインタビュー。その《後編》をお送りします!
※【さかだちインタビュー】吉成信夫さん、「本のひみつ基地」で大いに語る。《前編》の記事はこちら
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まず、柳ケ瀬の歴史と文化を掘り起こして、そこをスタートにしたい。その方が奥行きと広がりができるでしょ。
-この「本のひみつ基地」は、吉成さんと岐阜放送社長でメディア史に詳しい山本耕さんと、岐阜地理学会理事の安元彦心(げんしん)さんの3人で立ち上げた「柳ケ瀬文化的地層研究会」が発起人ということですが、そもそもはどういった思いでスタートしたんでしょう?
僕は9年前に岩手から岐阜市立図書館の館長として岐阜に来たんだけど、そのときから、岐阜の“文化のありか”がどこかにあるはずだ、と思っていて。そういう歴史や文化を掘り起こして、つまびらかにしたい。しかも、それを学者とではなく、まちの人と明らかにしていきたいと思っていたんだよね。
柳ケ瀬には戦後に最大で12館の映画館があったり、出版社があったり、書店や喫茶店もあって、文学青年や野心のある人や文化人が集まっていた場所があったはずなんだけど、それがどこか、わからなかったんだよ。でも、「赤い茶屋」に辿り着いてさ!
-「本のひみつ基地」のステートメントに書かれていた、岐阜で最初の純喫茶「赤い茶屋」のことですね。「私たちは、赤い茶屋から来た。」っていう最初の一文にしびれました!
これは山本耕さんが書いたんです。彼は岐阜新聞社で長年記者をやっていたからね。昔の新聞記事から「赤い茶屋」のことを探し出してきて。
-まさにこの場所に映画館「衆楽館」があって、その向かいに「赤い茶屋」があった。そして、今はここに「無印良品 柳ケ瀬」がある…。柳ケ瀬には、歴史や文化が地層のように積み重なっているんですね。
柳ケ瀬の文化の出自がわかってこそ、今の居場所のこれからを新しく編み直していくことができる。だから、今をスタートにするんじゃなくて、過去を解き明かして、そこからスタートしたいんだよね。その方が、奥行きや広がりができるでしょ。
これからここで、そういう歴史や文化を解き明かしていく「歴史部」と、もう一つ、今から先へ進む「未来部」を立ち上げていこうと思ってます。といっても、仕事じゃないし、急ぐ旅でもない。ゆっくりやろうと思ってるよ。僕にしては、すごく“ゆるい”感じで(笑)。
「イラストを描いてるって人がここに来てさ、僕のキャラクターを作ってくれたんだよ。
早速、POPみたいな感じであちこちに貼っちゃった。
いぬなりくんっていうの、可愛いでしょ。よく似てるよね!」
公民館みたいににぎやかな交流が生まれて、生活に近い“日常的な文化”が編み込まれていくといいよね。
-「本のひみつ基地」はまだ始まったばかりですが、これからどんな場所にしていきたい、とか、ここで何が起こるといいな、と思っていますか?
ここで人が、ゆっくりと繋がっていく感じがいいよね。
実は「柳ケ瀬の記憶」っていうテーマで連続トークショーをシリーズで9回くらいやろうと企画してて、1回目は「青雲館100年を祝おう!柳ケ瀬映画館史」っていうのをやるんだけど(注:すでに9月27日に開催し、満員御礼!)、告知はチラシを1枚ここに置いてるだけ。僕のfacebookとかでも投稿したりしないわけ。ここに来たり、問い合わせをしたりすることで見つけられる情報っていうのが、いいと思って。
-確かに今はSNSで、あまりにたくさんの情報が速く広く届いてしまう時代ですけど、そんな今だからこそ、情報を自分の足で集めたり、偶然にその場で見つけたりすることが、リアルでいいですよね。手触りのある情報というか。
僕は週1回くらいここに来るんだけど、その予定もこのノートに書き込んで置いてあるだけなんです。ここでノートを見た人が次に僕がここにいるときに来てくれるとか、知らずに偶然ふらっと立ち寄ったら僕がいた、とか、そういう感じがいいでしょ。
-ここで思いがけない出会いがあったり、ゆるく繋がっていろんなことが起こったりする感じがいいですね。
本って磁力になって、人を結びつけるんですよ。活字離れって言われるけど、デジタルではない、コンパクトな“物(ブツ)”としての力が、本にはある。
メディコスで“大人の夜学”っていう講座を開催してたんだけど、図書館の「シビックプライドライブラリー」の本棚の中で開催したときに、本に囲まれてるとすごく触発されることに気づいたんだよね。それは、人には本に対して培われてきた文化的な畏敬の念っていうのがあるからで、そこに本があると、それだけで空間の感じが変わるんだよね。
-巨大な本棚に囲まれてるこの「本のひみつ基地」も、まさにそれが具現化した空間ですね。
本と直接的に繋がらなくてもいいから、この本に囲まれた場所で、公民館みたいににぎやかな交流が生まれて、生活に近い“日常的な文化”が編み込まれていくといいよね。たとえば、編み物をする集まりとかさ。
-ここで誰かと一緒に編み物をして、おしゃべりして、時々本を読んで…。すごくいいです!
北欧のフィーカタイム(注:スウェーデンで大切にされているお茶の習慣。友人や家族とおしゃべりをしながら過ごすティータイムのこと)みたいに、ポットにコーヒーを入れて持ってきてお茶するとかね。あ、これはいつか僕がやりたいな(笑)。
これから、ここでいろんなことが起こっていくと思うよ!若い人たちとも断層を作るんじゃなくて、繋がっていって。みんながここに寄ってから柳ケ瀬に向かうとか、柳ケ瀬が“本のまち”になっていったりしたら、面白いよね!
まるで夏休みの少年のように(!)楽しそうに、
たっぷり2時間、止まることなく話してくださった吉成さんは
「今日はこれから打ち合わせがあるから、じゃ、また!」と颯爽と去っていった
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「無印良品 柳ケ瀬」に突如現れた「本のひみつ基地」。“何も目的がなくてもいられる場所”、“柳ケ瀬の積み重ねられてきた歴史や文化に触れられる場所”、“本を求めて、人々が集まる場所”、“公民館のように人が交流する場所”…。まずは、ふらりと訪れてみよう。きっとここから、これから、何か面白いことが始まっていくはずだ。
本のひみつ基地
住所:岐阜市日ノ出町2-15 無印良品 柳ケ瀬内
利用時間:10:00〜18:30、無休 ※「無印良品 柳ケ瀬」に準じる
イベント:
連続トークショー「柳ケ瀬の記憶」第2回「もう百貨店なんていらない?!柳ケ瀬・百貨店の100年史」を、2024年11月7日(木)18:30〜「本のひみつ基地」にて開催(入場無料・登壇者へのカンパあり)
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