【岐阜】岐阜まち歌舞伎(後編)

岐阜まち歌舞伎(前編)ではリハーサルの様子をお伝えしました。

 

後編はいよいよ本番当日!

開演を心待ちにしたお客さんの長蛇の列ができていました。

会場は3階ですが、列は外にまで続きます。

入り口では観劇中に食べることができる歌舞伎弁当や、長良川サイダー、若旦那会に所属するお店の商品の詰め合わせである、岐阜まち味めぐりが販売されていました。

 

一方控え室では、出演者の方々がそれぞれの役へと変身していきます。

そんな本番直前の様子をちょこっとご紹介!

台詞の多さは演者一、酒と博打が大好きな江戸っ子気質の「長兵衛」を演じるのは、“安乗院善光”こと善光寺安乗院の松枝さん。直前まで入念に台本をチェック。

 

赤い着物がとても可愛らしいこちらの女の子は、なんと松枝さんの娘さん! 父娘そろっての出演です。

 

演目のタイトルである「文七元結」の「文七」役を演じるのは、“指物屋匠之輔”こと住工業の住さん。

 

真剣に台本を読み込んでいるところを隠し撮り…の、はずが

 

 

バレてました。

 

 

 

そんなお茶目な住さんのお隣に佇んでいらっしゃるのは、“長崎屋宇之助”こと長崎屋総本舗の牧野さん。藤居さん同様、女形として女郎屋 角海老の女将「お駒」を演じます。

 

 

長兵衛の娘「お久」を演じるのは、名古屋大学の浅野さん。凛とした横顔がお美しい…。

 

 

カメラ目線をキメてくれたのは「藤助」役の“萬屋絵描衛門”ことORGANの蒲さん。絵描衛門と書いて「でざえもん」と読むそうです。

ちなみに、この“ぷくっ”と膨れた頰の中には、一口で頬張ったタコ焼きが。

 

「お化粧してるから、一口でいかないといけないんだよ」

 

そうなんです、カツラこそ被っていないものの、メイクの準備はもうバッチリ出来上がっています。

唇にもしっかりとメイクがされているので、何かを食べるときはとっても慎重。

ペットボトルのお茶も、ストローでお上品にいただきます。

 

今回の演目は、歌舞伎の中でも「世話物」という、いわゆる現代劇。派手な隈取りをする「時代物」とは違い、歌舞伎にしては薄いお化粧です。それでも、目元がキリリと引き締まり、男性も女性もかっこいい姿に。場の空気が一気に高まります。

 

 

控え室には報道陣も駆けつけ、着付けの合間には取材にも答えます。

みなさん本番直前まで大忙しです。

 

その頃の会場はというと、開場するや否や、客席はあっという間に満席に!

宣伝していたのは地域の方々だけということもあり、お客さん同士も顔馴染みが多いようで、和やかな空気が流れます。

 

アナウンスが入り、待ちに待った岐阜まち歌舞伎の開演です。

 

早速、若旦那会新会長藤居さんが登場し、前会長の川島さんとともに新会長就任のご挨拶を。

 

続いて、鳳川伎連の幇間見習い 辰次さん、

舞妓 喜久豆さん、

そして幇間 喜久次さんが舞踊を披露し、会場の空気をあたためます。

「幇間(ほうかん)」とは男性芸者のことで、現代の日本では数人しかいない貴重な存在だそうです。

プロの演舞を目の前にし、ざわざわとしていた会場にも程よい緊張感が漂います。

 

さて、いよいよ歌舞伎が開幕…の、前に、一旦休憩。

 

 

その間、つい先ほどまで舞台でご挨拶をしていたお二人もお芝居に向けて衣装チェンジ。

旦那の長兵衛とは毎日喧嘩をしてばかりの「お兼」を演じるのは、“藤井進左衛門”こと藤井佛壇の藤居さん。舞台の上でご挨拶をしていた時とは打って変わって、すっかりお兼の風貌に。

 

文七の親方「清兵衛」を演じるのは、“麩屋兵右衛門”こと麩兵の川島さん。

 

他の演者さんたちも続々とヅラを被っていきます。

 

本番ギリギリまで入念に調整。

さて、そろそろ休憩も終わり。

いよいよ「人情噺文七元結」の幕開け、待ちに待った若旦那衆の登場です!

 

 

 

 

最初に舞台へ上がったのは、松枝さん演じる「長兵衛」と藤居さん演じる女房の「お兼」。

長兵衛は腕の良い左官職人ですが、酒と博打に明け暮れて借金を重ね、女房と娘の「お久」と3人で貧乏暮らしをしています。

 

「あんたァ、大変だよ、お久がいなくなっちまったんだよ」

「なに?そんなもんおめェ、いねぇとこ探してるからいねぇんだ。いるとこ探したらいるだろうよ」

「いるところが分かるんだったらとっくに見つけてるよォ」

 

娘のお久がいなくなってしまった…なんて不穏な話ですが、二人の軽快な掛け合いに、観客からはクスクスと笑い声が。

 

そこへ、蒲さん演じる「藤助」が登場。

 

「長兵衛さん、実は女将さんからの使いでまいりました。ちょっとお越し願いたいと…」

「すまねぇが今、ちょっと取り込んでましてね」

「つかぬことをお伺いしますが、娘のお久さんのことではありませんか?」

 

娘のお久は、なんと吉原の女郎屋 角海老の女将さん「お駒」のところにいました。

 

 

 

場面は代わり、お久がいる 女郎屋 角海老へ。

この時、劇中の台詞の中で「油屋の佐太郎」が登場すると、今回は観客として最前列に構えていた山本佐太郎商店の山本さんから大量のおひねりが…!

よっ! 油屋!

 

さて、藤助に連れられ、お久のもとへやってきた長兵衛。

何も言わずに出て行きやがってとお久に小言を言いますが、女将さんから事実を聞かされ唖然。

毎日毎晩喧嘩を続ける両親のために、「いくらにでもあたしをお買いくださいまし」と、自分の身を売って借金を返すお金を作ろうとしたのでした。

「親のために身を捨てようって娘はなかなかいないよ。…一体いくらあったら仕事にかかれるんだい」女将さんはそう言って、長兵衛に50両のお金を貸してくれます。

「お久、勘弁しとくれよ、俺が悪かった。精出して一生懸命働くから、お前さんも辛いことがあっても、女将さんのおっしゃることをよく聞いて、辛抱しとくれよ…俺が迎えに来るから…」

「おとっつぁん、あたいのことは心配しなくっていいよ、だから…そのお金で博打だけはしないでおくれよ。仲良くしておくれ。もう打ったりしちゃあいけないよ。一生懸命働いて、私を早く迎えに来ておくれよ…」

「ああ、大丈夫だ…決してやらねえ、本当だ、おめぇも心配しなくっていいよ…泣くなよ、めそめそ泣くんじゃあなあいよ…」

 

お久の手を丸ごとぎゅうっと包み込む長兵衛の姿に、思わずじんわり。

 

 

幕は変わり、住さん演じる「文七」が登場。

いつもは元気溌剌の住さんですが、ご主人様に渡さないといけないお金を盗まれたから死んで詫びるしかない…と、身投げをしようとするという役どころ。

魂が抜けたような歩みを、見事に演じます。

 

そこにたまたま通りかかった長兵衛。身投げをしようとする文七を引き止め話を聞くと、盗られたお金は今自分が持っているのとちょうど同じ50両。

身寄りもいない自分の世話をしてくれているご主人に申し訳がない…と、何が何でも身を投げようとする文七に、長兵衛は散々悩み悩んだ挙句、「人の命は金じゃあ買えねェ」と、娘が身を売って得たお金を渡すことを決意します。

大事なお金を渡すんだから絶対に死ぬんじゃないぞという長兵衛と、そんな大事なお金は受け取れないと拒む文七。

 

「こんな大金、見ず知らずの方にいただくわけにはいきません!」

「当たり前だ、俺だって本当はやりたかないが、お前さん、そのお金がないと死ぬってえんだろ」

「そんな理由がある大金、なおさらいただけません」

「わからねえ野郎だなァ! いいから持ってけってんだよ!」

 

お二人とも、素人とは思えない白熱の演技です!

 

 

長丁場と聞いていたけれど、夢中になっているうちに物語はあっという間に終盤へ。

 

大切なお金をあげてしまった長兵衛の家では、案の定大喧嘩が繰り広げられています。

 

「アンタ、また博打をやったね?娘が身を売ったカネだよ!?」

「だから何遍も言ってるじゃあねぇか、身投げを助けるんでやったってんだよ!」

「だったら名前ぐらい聞いてるだろう、何町の何兵衛だい!」

 

今にも取っ組み合いになろうかという時、川島さん演じる文七の主人「清兵衛」が文七を連れて家を尋ねます。

 

実はお金は盗られていたわけではなく、お屋敷に忘れてしまっていただけでした。

もともとの50両はちゃんと手元に戻ってきているから、と長兵衛から受け取った50両を返しにきた二人。

江戸っ子の長兵衛は「一度人にやったものだから受け取れない」と拒みますが、このお金は長兵衛たちにとっても大事なお金。「へへッ…よ、他所で言っちゃぁいけねぇよ」と、渋々受け取ります。

お金の他に、命を助けてもらったお礼にと「麩まんじゅう」とお酒を持ってきた二人でしたが、受け取るのはお金だけで十分だといって頑なに受け取ろうとはしません。

 

「それなら、改めて“肴”をお持ちいたします」

そう言って清兵衛が玄関の外へ声をかけると、やって来たのは角海老の女将と藤助、そして…

 

「おとっつぁん!」

 

見違えるほど綺麗な格好をしたお久でした。

最後にはこれがご縁で文七とお久の縁談が結ばれることに。

文七は清兵衛から“のれん分け”をされ、まげの根元を縛る細紐「元結」を売り出した商売を始めたところ、これが大ヒット。

「文七元結」と呼ばれる江戸名物となりました。

 

 

 

 

 

深々とお辞儀をする出演者に、拍手は鳴り止まず、会場のあちらこちらからたくさんのおひねりが撒かれます。

 

締めには、岐阜の民謡「おばば」を会場一体となって唄い、今年の岐阜まち歌舞伎も、大好評のうちに幕を閉じました。

 

 

記念撮影は、会場から笑いの起きた”あのシーン”のポーズで!

若旦那会のみなさん、本当にお疲れ様でした! 今から来年が楽しみです。

 

 


 

 

岐阜祭奉賛 岐阜まち歌舞伎

日時:2017年4月4日(火)18時30分開演

場所:伊奈波神社参集殿「稲葉座」

 

平成二十九年度実行委員長 俵屋角三郎(大平米穀店 大平雅章)

 

一、御祝儀・長唄素囃子『雛鶴三番叟』/

◇笛

小野崎隆賢

◇小鼓

住田喜久次

◇太鼓

加藤亜梨(杵屋喜朱雀)

◇三味線

杵屋喜鶴

◇唄

加藤神威(喜鶴師御令息)

 

 

二、新会長披露口上/

◇岐阜町若旦那会 新会長

藤井進左衛門(藤井仏壇 藤居進一)

◇岐阜町若旦那会 前会長

麩屋兵右衛門(麩兵 川島徹郎)

◇介添人

鳳川伎連 幇間 喜久次

 

三、舞踊 春霞伊奈波彌栄(はるがすみいなばのいやさか)

_一、舞踊・長唄 松の緑/立方 鳳川伎連 幇間見習 辰次

_一、舞踊・長唄 元禄花見踊/立方 鳳川伎連 舞妓 喜久豆

 

_一、舞踊・端唄 松づくし/立方 鳳川伎連 幇間 喜久次

 

四、歌舞伎 人情噺文七元結

作・口演 三遊亭圓朝

改訂・補綴 ももたなむ

指導振付 鳳川伎連 喜久次

◇左官 長兵衛/安乗院善光(善光寺安乗院 松枝秀晃)

◇長兵衛女房 お兼/藤井進左衛門(藤井佛壇 藤居進一)

◇和泉屋手代 文七/指物屋匠之輔(住工業 住公輔)

◇角海老女将 お駒/長崎屋宇之助(長崎屋総本舗 牧野浩之)

◇角海老手代 藤助/萬屋絵描衛門(ORGAN 蒲勇介)

◇角海老花魁 巴/熊田朋恵(ORGANチンドン隊)

◇角海老小職 お豆/松枝杏奈(善光寺安乗院)

◇長兵衛娘 お久/浅野朱音(名古屋大学)

◇和泉屋 清兵衛/麩屋兵右衛門(麩兵 川島徹郎)

 

五、納め唄『おばば』

 

 

【岐阜町若旦那会】

会長 藤居進一(藤井佛壇)

副会長 松枝秀晃(善光寺安乗院)

牧野浩之(長崎屋総本舗)

高橋秀太(高橋製瓦)

大平雅章(米角大平米穀店)

金森正親(伊奈波商會)

蒲勇介(ORGAN)

川島徹郎(麩兵)

寺澤隆浩(亀甲屋本舗)

古田浩紹(ヱビス)

矢島明(Yajima Coffee)

 

【特別参加】

住公輔(住工業)

2017年04月08日作成
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