【岐阜】岐阜まち歌舞伎(前編)
毎年ちょうど、桜が芽吹く4月4日、伊奈波神社では「岐阜まち歌舞伎」が上演されます。
岐阜まち歌舞伎は、「岐阜町若旦那会(ぎふまちわかだんなかい)」のメンバーによって2012年から始まり、今回で6回目を数えます。
本番前日、舞台設営とリハーサル真っ最中の会場のお邪魔しました。
岐阜町の地域活性化を目的に、お寺や仏壇屋、米屋など老舗の跡取りが集まって結成された「岐阜町若旦那会」。
そのため、メンバーにはそれぞれ本業があり、歌舞伎に関していえば全くの素人です。
短い練習期間の中、本業が終わったあとに毎晩お稽古を重ね、素人とは思えないほどの完成度の高い舞台を披露してきました。
地域の方々は毎年この時期になると本番の日を心待ちにしています。
今回披露する歌舞伎は、落語が元となっている「人情噺文七元結(にんじょうばなし ぶんしちもっとい)」。
歌舞伎には大きく分けて “時代物” と “世話物” があり、「人情噺文七元結」は“世話物”に当たります。世話物とはいわゆるホームドラマのようなもので、町人社会や世相風俗を扱った台詞劇です。
この「文七元結」ですが、登場人物が多く長い演目ということから、落語の中では非常に難しい一題とされています。
今回は落語ではなく歌舞伎での披露ですが、それでも全4幕からなる1時間の長丁場。
登場人物も台詞も多く、また時間もかかるため、通し稽古の回数は限られました。
指導振付の鳳川伎連 喜久次さんが見守るなか、リハーサルがスタート。
集中力を高め、入念にお稽古に励みます。
リハーサル終了後、出演者の方々にお話を伺いました。
今回のお話のキーマンとなる「文七」を演じるのは、住工業の住さん。
若旦那会のメンバーではありませんが、特別参加ということで歌舞伎に初挑戦。
住さん「練習期間は2週間と短いものの、他の出演者が今回で6回目ということで、歌舞伎に慣れてきているのが心強い。」
リハーサルでは、初挑戦だということを感じさせない白熱の演技を披露していた住さん。翌日の本番が楽しみな様子でした。
主役の「長兵衛」役に抜擢されたのは、善光寺安乗院の松枝さん。娘さんと親子揃っての出演です。
今回の演目で難しかったところ、見どころをお聞きしました。
松枝さん「4幕あって、自分は出ずっぱりだけれど演じる相手は変わるので、心情に合わせて演技をするのが難しかった。世話物は、第2回の岐阜まち歌舞伎時に出演し、今回で2回目。台詞が長いけれど、あえて台本を丸暗記するつもりはなく、伝えたい内容を頭に入れて演じることで自然と話せるようになっていく。長丁場なので飽きずに見てもらいたいです。」
松枝さんは、おそらく一番台詞の多い役であるにも関わらず、リハーサルではつっかえることなく”長兵衛”になりきって長丁場を演じきっていました。
そもそもなぜ歌舞伎を上演することになったのかが気になり、実行委員長である大平米穀店の大平さん(写真中央)と、若旦那会前会長である麩兵の川島さん(写真左)にもお話を伺いました。
大平さん「伊奈波神社では、かつて岐阜まつりの宵宮で町衆による“にわか芝居”(いわゆる素人による即興芝居)が演じられていたんですよ。ただ、それの復活が目的というわけではありません。昔は境内にも芝居小屋があって、この町は歌舞伎の文化が根付いている場所なんです。歴史のある町だということを伝えられた上で、この歌舞伎をきっかけにまちが盛り上がればいいなというのが、岐阜まち歌舞伎の本来の目的です。
もちろん、たくさんの方々に見て欲しいという想いはあるものの、宣伝活動を行なっているのは岐阜小学校の校区だけ。広い会場を借りて上演することもできるけれど、この場所(伊奈波神社)でやることに意味がある。」
6回目を迎え、地域の人々にも「岐阜まち歌舞伎」が定着し、250人の客席はいつも満席。立ち見が出るほどたくさんの人で溢れかえります。
川島さん「お客さんが顔馴染みで、中には自分のことを幼い頃から知っている人もいます。だから演者としてはとても緊張する…!」
確かに、周りを見渡せば知り合いばかり…となると、緊張感も高まります。果たして、つまることなく、無事に終えられるのでしょうか?
長兵衛の女房「お兼」を演じたのは、若旦那会新会長、藤井仏壇の藤居さん。
そう、なんと女形です!
藤居さん「初挑戦の女形、女性らしい歩き方に苦戦してます…ついつい歩く時に足が開いてしまって、周りから「足閉じて!」と…(笑)」
また、これまでは30分程度の演目だったけれど、今回は長丁場の台詞劇ということで、台詞を覚えるのが大変だったそうです。
最後に、お手本を見せながら演技の指導をしていた、鳳川伎連の喜久次さんにもお話をお伺いすることができました。
「岐阜まち歌舞伎」の脚本は、喜久次さんが編集を行なっています。
オリジナルの内容に地元のネタを取り入れ、「岐阜町若旦那会」らしさが出るようにアレンジ。
これまでは、1時間半から2時間の作品を20分から30分に短縮して脚本を作っていましたが、短縮すると話が途切れてしまうため、1時間の長丁場となりました。
喜久次さん「今回の演目は台詞も多いし時間も長い。最初の方は、みんな台詞を覚えることで一生懸命、という感じ。それが、2週間ほぼ毎晩お稽古をして回数を重ねていくなかで、出演者の演技をするときの”勘”がよくなっているのを感じましたね。」
喜久次さんによると、笑いだけでなくシリアスでほろっと涙する場面が「人情噺文七元結」の見どころ。
記事の後編では本番の様子をお届けします。お楽しみに!
〜後編へつづく〜
さかだちブックスをフォローする